競争社会が生み出すブータン王国の闇

はじめに
「日本社会は競争社会」
中学校からそのような言葉を聞くようになりました。
「人生をより良いものにしていくためにはこの競争社会で勝たなくてはいけない。」
「そのためには、良い大学に行かなくてはいけない。」
「良い大学に行くには勉強をしなくてはいけない。」
といった具体的に、多くの人に教え込まれました。
私もその流れに乗り、現在に至っています。
この生き方に特に後悔はないですし、これからも後悔はしないかなと思います。
勉強好きだし。
さて、現在の話ですが
「受験戦争に勝たなくては、将来は保証されない。」
という時代は変わりつつあるのではないでしょうか?
面白いアイディアがあれば高校生の内から起業できますし、高卒でも成功している人はたくさんいます。
良い社会になってきましたね。
では、
私が住んでいたブータンではどうなのか?
実はブータンも学歴社会・競争社会です。
ただ、状況が少し複雑です。
今回は、複雑な状況を含めて、ブータンの競争社会について書いていきます。
この記事はブータンのことや海外に興味がある人に向けての記事です。
この記事を読むことで以下のようなことが理解できます。
【結論】
ブータン王国の方が学歴社会かもしれない。
「生き残りに必死なのよ。」
この言葉は私の大学の同僚が言った言葉です。
「ブータンで生き残るためには、学歴が必要。私は国のお金で修士学位を取ることができたけど、息子も同じようになれるとは限らない。息子の将来のためにも、良い教育を受けさせなくてはいけない。」と言っていました。
実際に、私の勤めている大学の学生に出身学校を聞いていみると、半分くらいが私立高校出身という感じでした。
つまりは、私立学校に行った方が大学に行きやすくなる。
生き残りをかけて、
学歴の高い親の子どもは必然的に私立学校に行かせたくなります。
この現象は日本と同じですね。
ブータン王国でも日本と同じように「学力の再生産」が起きていることがわかります。
学力の低い家庭は低いままに、高い家庭は高いままに。
ブータンも近代化の波には勝てないようです。
さて、
ブータンで学歴の重要性を同僚や周りからは聞いているのですが、
その一方で、興味深い現象が起きています。
失業者の多くは大学卒業生
Kuensel、2017年11月24日、Yangchen C Rinzin記者
http://www.kuenselonline.com/youth-unemployment-rate-reaches-13-2-percent/「失業者の大半は大学卒業者であり、その約57%がティンプー、パロ、サムツェにいる」
「合計1,832人が2年以上失業し、1,741人が1年間失業している」
生き残るためには大学に行くことが大切なのに、一番の失業者は大学生だという皮肉な現象が起こっています。
記事を見て気が付いたのですが、パロとサムツェにはそれぞれ教育大学があるので、卒業した学生たちが教員になれずに失業しているのではないかと推測できます。
去年のブータン教員採用試験の募集人数が、2つの教育大学の卒業人数よりも100人以上下回っていたので、毎年失業者が出ているのは仕方のないことかもしれません。
他の受験生を蹴落として採用試験に合格をしなくてはいけない状況だということです。
Kuensel、2017年11月25日、Yangchen C Rinzin記者
http://www.kuenselonline.com/jobseekers-prefer-desk-jobs-labour-minister/「2,511人が失業状態にある、現在、水力発電事業、農業、観光、自営業、建設業等で3,626人分の求人があるが、それが埋まらないのは、若者の公務員志向が強すぎて、民間セクターでの仕事を好まないから。」
「政府は民間33企業で1,263人分の雇用機会を設けたが、実際に求人に応募してきたのは少ない。皆プンツォリンやティンプー、パロといった都市部で働きたがる。」
「多くの若者はすぐに職を得られなくても困っていない。近くに頼れる人がいるから。このことが失業を助長している。」
ただ、上記の記事を見てわかる通り、若者は失業しているにも関わらず、仕事を選り好みしています。
大学を卒業した人は、いい感じの職業が都市部で空きが出るのを待っているようです。
なぜそのような状況になるのか?
ブータンはいまだに村社会の文化が残っています。仕事が無くても親を頼ればいいし、それでもだめそうであれば近所を頼るといった文化が残っているそうです。
よって、焦って就きたくない職業に就職する必要はないようなのです。
日本人としては「ちゃんと働けよ!」と思ってしまうのですが、
これもブータンの良い文化の1つなのかもしれません。
ちなみに、工事現場のようなブルーカラーの職業をブータン人は嫌うと聞きます。
その理由は、インド人がその仕事を行っているからです。
インド人の労働賃金はブータン人よりも低いため、ほとんどの工事現場での仕事はインド人が行っています。
ブータン人はプライドが高いため、そのような仕事はブータン人が行うものではないと思っているようなのです。
日本人の私からすれば、「人にお世話になるくらいなら、給料が安くてきつくても工事現場で働くほうがまし!」となるのですが、ブータン人のプライドがそれを許さないようです。
おわりに
「大学に行くために必死に頑張る・公務員になるために頑張る・絶対ブルーカラーにはならない」
プライドを守るために競争をしているように見えなくもないのですが、ここまでプライドを保つことにかけているとカッコよささえ感じます。
ただ、このプライドを保てるのも村社会があってからこそです。
もし、ブータン固有の村社会文化が崩れてしまったら、状況が変わっていくかもしれません。
私のように、「人にお世話になるくらいなら、給料が安くてきつくても工事現場で働くほうがまし!」とブータン人も思うかもしれません。
そんな日は遠くないのではないかと思います。
【結論】
ブータン王国の方が学歴社会かもしれない。
今回はここまで。お読みいただきありがとうございました。
ではまたほなね。